ピエール・ルッス
ピエール・ルッスは、ラングドック地方のカルカッソンヌの南に位置する(La Malepere村)で5haの葡萄畑を所有しています。会って感じた印象は無口で控えめ、見ようによっては少し変わった人とも言えますが、仕事は早くて正確、実直そうな部分も感じました。私たちが知るフランスのヴァン・ナチュールの生産者の中でも、ひときわ個性的なワインを造る人物で、それ故に販売でもかなり苦労しているようです。しかし、しっかりと向き合いながら飲み進めると、実に魅力に溢れるものがあることを、きっとお分かりいただけると思います。
ロワール地方の農家に生まれたピエールは幼い頃から農業に関心を抱き、農業だけではなく自然保護と地域伝統遺産について学びました。 最初のワインとの出会いは収穫で、それが農家になるためのプロセスとして自分に合った方法だと感じたようです。更にはカーヴでの仕事、葡萄がワインになる不思議な変化に惹かれたのです。他の農産物の仕事にも従事しましたが、人との出会いや経験から、葡萄畑の仕事が自然と増えました。
2001年、収穫を手伝っていた友人であるペシゴのシルヴァン・ソーから、所有者が収穫しない区画に関する情報を得ました。その区画は農薬すら使用されておらず葡萄の木を抜く予定だったのですが、見学に行き、所有者に葡萄を収穫できるかどうかを尋ねて承諾を得ました。この収穫が初めての醸造に繋がりました。とても無骨で冒険的な試みでしたが、バリック2樽で数百本のワインができましたし、 このワインをとても誇りに思いました。
2004年に別の区画が見つかり、所有者から賃借して自ら栽培することを勧められました。それには少し戸惑いを感じたようですが、悩んだ末に借りることにしました。これが最初畑で、1ヘクタールのメルローです。
2005年、彼には収穫がありませんでした。無農薬栽培にチャレンジしたのです。結果はベト病による恐ろしい被害に見舞われることになりました。翌年から少量の硫黄とビオディナミの調剤による自然農薬を散布し、ようやく葡萄を収穫することができました。現在はシルヴァン・ソーの畑を引継ぎ、主として2つの区画の栽培を行っています。有機栽培、醸造の認証についてはEcocertを取得していますが、エチケットに表記していません。
醸造:これといって決まった方法はないが、明確に言えることは、このワインを構成しているものは純粋に葡萄だけであり、他のものは一切加えられていない。 醸造学の知識がとても豊富なタイプではないが、品種の個性もしくは地域性を表現することを意図してはおらず、ワインが全くの規格外で好まない人も多いだろうが、何からも束縛されない自由なワインである。
カーヴは19世紀の終わりに建てられたもので、石の壁が厚く温度変化は緩やか。冬は寒くなり夏は温まるが、その変動はとてもゆっくりとしたものでショックはない。タンクはステンレスとグラスファイバー製で、樽は用いない。
メルローとカベルネは通常は5-6日の短いマセラシオン、房ごとタンクに入れ、軽くピジャージュ。自分のピノ・ノワールにはマセラシオンカルボニックが合っていると考え、果実味を大切にし、タンニンや果梗の抽出を押さえている。
キュヴェの名前について: 彼は、同じワインを毎年作り続けることを最初から考えていない。年ごとに、ブドウのポテンシャルを最大限に引き出せるように栽培するよう努めている。 結果として共通の何かあるのかも知れないが、正確の異なるワインができていると思っているため同じ区画、同じアッサンブラージュであろうとも、キュヴェ名は毎回変えている。例として、SpumosumとMartingaleのブドウは同じ区画のシャルドネだが、ヴィンテージも性格も異なるため、違う名前を付けている。
バガテル
メルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン。オレンジがかったガーネット色。ドライ苺やデーツなどの甘やかさのあるドライフルーツの香りに、たばこや土、根菜、ドライフラワーなどの香りが加わります。
ピエール・ルッスのワインには揮発酸がひときわ高いものが散見されますが、バガテルには拍子抜けするほど揮発酸の要素を感じません。熟成により軽やかでしっとりと溶け込むようなミディアムタッチで複雑な風味を伴うほんのりと甘やかな果実の風味は伸びやかな酸に導かれ広域に広がります。ドライハーブなど枯れた印象や鰹だしのようなニュアンス、果実味は赤系の凝縮感のある優しい甘みを持つ風味へと変化しています。複雑で奥深く、それでいて可愛らしい果実感を感じさせる味わいです。数日経過してもネガティブな印象は感じられず、グラスワインでもお使い頂き易い仕上がりです。(インポーターさん資料から抜粋)